メコンオオナマズの王様 作: 大和恵弘
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学(まなぶ)がお父さんの転勤で、タイのバンコクに引っ越してきてから、もう三年になります。学はいま、タイ人の小学校二年生です。
二年前のある日、お父さんとお母さんは学にたずねました。
「もうじき小学生になるんだね。学は日本人学校へ通いたい?それともタイ人の小学校に入りたい?」
学は少し考えてから、
「ぼく、タイ人の小学校に行きたい」と答えました。
じつはそのときもう、学は近くに住むソムチャイという男の子と大の仲よしになっていたのです。妹の真奈美(まなみ)も、ソムチャイの妹ソムシーと、とても仲のいい友だちになっていました。
ソムチャイもソムシーも、ほかのタイ人の子どもたちもみんなそうでしたが、学のことを「マナブ」ではなく、親しみをこめて、タイ人の男の子の名前「マーナ」と呼んでいました。真奈美のことも、「マナミ」ではなく、タイ人の女の子の名前「マーニー」と呼んで、いっしょに遊んでくれました。
ですから、真奈美もいまは、「私もお兄ちゃんと同じタイ人の小学校に入るの」と言っています。
◇◇◇◇◇◇>
ある日曜日、お父さんがマイクロバスを借りてきてくれて、学と真奈美は、ソムチャイとソムシーもいっしょに、バンコクの北、約七五キロメートル、車で一時間ちょっとのところにあるアユタヤーへ行きました。
アユタヤーは、いまから二四〇年近く前まで、四〇〇年以上もの長い間、アユタヤー王朝の首都として、たいへん栄えたところです。いまはユネスコが、大切な宝として守り、人類共通の財産として未来へ引きついでゆくために、「世界遺産」に登録してあるところです。
学たちは、アユタヤーの歴史公園で、石でできた三つの大きな仏塔があるワット・プラ・スィー・サンペットという仏教寺院の廃墟や、昔、ミャンマーとの戦争でたくさんの石の仏像が壊されたり、木の根の間に仏像の頭が埋めこまれてしまっているワット・プラ・マハタートの遺跡などを見て歩きました。
帰りに、お父さんが、
「そうだ。まだちょっと早いから、バンサイの水族館に寄って行こうか?」といいました。子どもたちは、
「ワーイ、やったーっ」と、歓声をあげて大喜びです。
水族館はアユタヤー近くにあるバンサイ民族文化センタというテーマ・パークの中にあります。
「ここはタイにいる淡水魚だけを集めた水族館なんだよ」と、お父さんが説明をしてくれました。
学たちは中に入り、たくさんのガラスばりの水槽で飼育されているさまざまな魚たちを見てまわりましたが、ある一つの大きな水槽の前で、
「うわー、でっかいなー」と驚きの声をあげ、目を見はりました。
そこで学たちが目にしたのは、長さが二メートル、体重が一〇〇キログラムもあるメコンオオナマズという魚でした。
そのオオナマズは頭は大きくて平たく、口も大きいのです。口の上と下に、ひげが二本ずつ生えています。背びれは小さいのですが、尻びれが長く、尾ひれまで続いています。背中は暗い茶色ですが、お腹のほうは白です。鱗はついていません。
学は、海には哺乳類のクジラの仲間や魚類のサメなど、人間より体の大きな動物がたくさんいることを図鑑を見て知っていました。けれども、ソーヒイの二倍以上もある魚が川に住んでいるなんて知りませんでした。
「この魚はこんなに大きいけれど、いったいもう何年くらい生きているんだろう?こんな大きな魚が泳いでいるメコン川ってどんな川なんだろう?」
と思いながら、学はその水槽の前に釘づけになったように、
「おーい、学。もう、そろそろ行くぞー」
とお父さんに呼ばれるまで、ゆったりと泳ぐメコンオオナマズの姿を、息をつめるようにしてじっと見ていました。
帰りのマイクロバスの中でも、学はあのオオナマズのことばかり考えていました。そして、あんな大きな魚が棲んでいるメコン川という川の流れを、一度、見てみたくなりました。
◇◇◇◇◇◇>
その晩、学は水の底から響いてくるような、男の人の声を聞きました。
「学くんといったね。君はまだ、メコン川に来たことがなかったんだね」
「え、姿が見えないけれど、あなたはだれですか?」
「わしは、君がきょう水族館で見たメコンオオナマズの王じゃよ」
「オオナマズの大様ですって?」
「そうじゃ。わしはいま。タイとラオスの国境の町コーンケーンのそばの、メコン川にいるのじゃ」
「それなのに、そうしてバンコクにいるぼくと話ができるんですか?」
「ハハハ。わしはもう三〇〇年以上いきているから。自然とそんな術もできるようになってな」
「三〇〇年以上もですか?すごいおなぁ」
「なあ、学くん。こんど一度、メコン川にやって来たまえ。君が来たら、メコン川の話をしてあげよう」
「ほんとうですか?でも、ぼくはどうやって王様を見つけたらいいんですか?」
「ハハハ。そのことなら心配はいらない。君が、どの町でもいいから、メコン川まで来さえすれば、わしのほうから会いに行くよ」
「ほんとうですか。じゃあ、ぼく、いつかきっとメコン川に行きますから」
「そうか。では待っておるぞ」
学は夢を見ていたのでした。
◇◇◇◇◇◇>
十月。オーク・パンサーの日がやってきました。タイでは雨期の始まる七月のカオ・パンサーの日から三カ月間、仏教のお坊さんたちはいっさい外出をせずにお寺にこもって、一生懸命、修行をします。オーク・パンサーとは、雨期が明けてお坊さんたちが外出できるようになる日なのです。この日には、信者の人たちがお坊さんたちに新しいサフラン色の衣を贈る儀式が行われます。
学校が日曜日と連休になって、この日の朝、学と真奈美は、サオムチャイとソムシーといっしょに、国内線のひこうきに乗って、ナコーンパノムにやってきました。この町にはソムチャイのお爺さんとお婆さんが住んでいるので、四人は泊りがけで遊びにきたのです。子どもたちだけで飛行機に乗って旅行するのは、初めてのことでした。バンコクの空港までは、お母さんとソムチャイのお父さんが、自動車で送ってくれました。ナコーンパノムの空港には、ソムチャイのお爺さんが迎えにきてくれました。
学は「サワディー・クラップ」と、また、真奈美は「サワッディー・カー」といって、両手を胸の前で合掌するようにして、タイ式の「こんにちは」のあいさつをしました。
「サワディー・クラップ。やあ、よく来たね。お婆さんと、みんなが来るのを楽しみに待ってたよ」
と、ソムチャイのお爺さんがニコニコしながらいいました。
「きょうはこの町のお祭りの日なんだよ。着飾った人たちのパレードや、音楽と踊り、蝋に彫刻した寺院の霊廟コンテスト、それにボート・レースもあるんだよ。晩には、メコン川に豆電球できれに飾ったたくさの舟を流したりもするんだよ」
「えっ、メコン川でですか?」
学は思わず聞き返しました。
「メコン川が見られるんだ。メコンオオナマズの王様に会えるかもしれない」
そう思うと、学は胸がドキドキしてきました。
お爺さんの家についても、学はオオナマズの王様に会えるかどうか、そのことで、頭がいっぱいでした。ソムチャイが話しかけても、しばらくはうわの空です。
「ねえ、学ったらぁ」 ふと、不思議そうに学の顔をのぞきこんでいるソムチャイに気づいて、学は、
「あ、ごめんごめん、ソムチャイ。ぼく、いま、このあいだ見たメコンオオナマズの王様の夢のことを思い出していたんだ」といいました。
「オオナマズの王様だって?」
「うん、そうなんだ」
学はソムチャイに、このあいだ見た夢の話をしました。
「ふーん。学が夢で見たのは、バンサイの水族館でみた、あのメコンオオナマズの王様なんだね」
「そうなんだ」
「なんだか、ぼくもその王様に会ってみたくなっちゃったよ」
「ソムチャイも?」
「うん」
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その日、四人はソムチャイのお爺さんにつれられて町に出て、赤やオレンジや黄や青のきれいな民族衣装を着た人たちのパレードや、町角につくられた舞台で歌や踊りを見ました。音楽には、初めて見る笛、木琴、太鼓、ゴングなどの楽器が使われていました。
夕ごはんはお婆さんがつくってくれた<カオニャイ>と<ソムタム>と<ガイヤーン>でした。<カオナャイ>は竹であんだ籠に入れて出される蒸したもち米のごはんです。イーサーンと呼ばれる東北地方では、主食のごはんは、うるち米ではなく、もち米です。食べるときは、ごはんを指でまるめて口に入れるのです。学には小さなおにぎりをつくるようなごはんの食べ方は初めてでした。
<ソムタム>はまだ青いパパイヤを細く切って、甘くて、からくて、すっぱくて、しょっぱい、いろんな味のするドレッシングやピーナッツとまぜたサラダです。<ガイヤーン>はニワトリを竹の串に刺して炭火で焼いた料理です。
デザートには、子どもたちが大好きな<ブアローイ>という、白玉だんごが入った、甘くて冷たいスープをつくってもらいました。
太陽が沈むころから、メコン川の岸辺にはたくさんの人たちが集まってきました。四人もお爺さんとお婆さんにつれられて、川岸までやってきました。夜は暗くて川の流れはよく見えませんが、川幅は向こうのラオス側まで一〇〇〇メートル近くありそうです。
「メコン川は東南アジアでいちばん長い川なんだよ。源はチベット高原だが、中国、ミャンマー、ラオス、タイ、カンボジア、ヴェトナムと、六つもの国を流れているんだ。長さは四〇〇〇キロメートルもあるんだよ」
「四〇〇〇キロメートル?」
「そうなんだ。日本でいちばn長い川は信濃川っていう川だろう。メコン川はその信濃川の10倍以上もあるんだよ」
「ずいぶん長いんだなぁ」
◇◇◇◇◇◇>
メコン川に豆電球やちょうちんで飾られた五〇隻以上もの舟を浮かべ、亡くなった人たちの魂を送る≪ライー・ルラ・ファイ≫というお祭りの行事は、それは息をのむほどにきれいなものでした。
舟は水に浮かびやすい竹やバナナの木でつくられています。長さは一〇メートルから一二メートルくらいもあります。帆のところには、一〇〇〇個以上の黄や赤の豆電球で、<ナーガ>というヘビの神様や<ガルーダ>とよばれるトリの神様、そのほか『ラーマキエン』という物語にでてくる人物や動物などの姿が描かれています。舟には花やお菓子や果物などのお供えがのせられています。それらの舟に明かりがともされて静かに川面を漂うさまは、まるで夢の世界にいるようで、とても神秘的でした。
学は以前日本の精霊(しょうろう)流しというお祭りの行事をテレビで見たことがありますが、このナコーンパノムの≪ライー・ルア・ファイ≫はそれよりもずっと大がかりで美しく、心に残るものでした。
◇◇◇◇◇◇>
「学くん。約束どおり、メコン川来てくれてありがとう」
「あ、オオナマズの王様ですか?」
「そうじゃ。わしのことを覚えていてくれたかね」
「もちろんですよ、王様」
「どうじゃ、≪ライー・ルア・ファイ≫の祭りはとてもきれいじゃったろう?」
「ええ。ぼく、あんなきれいなお祭りを見たのは、生まれて初めてです」
「ハハハ。そうか。わしもあの祭りが好きでな。じつはきょうも、君たちの近くで見ておったんじゃよ」
「え、そうなんですか」
「ああ。ここナコーンパノムには、祖先がラオス人やヴェトナム人だった人たちもたくさん住んでおるのじゃか、いまはみんなタイ人として仲よく暮らしておる。学くん。人間はな、わしらとちがって、たとえ異なる人種の人たちとでも、仲よくいっしょに暮らしていくことができる、地球上でいちばん賢い生きものなのじゃ。そのことを忘れてはいかんぞ」
「はい」
「だからゆうべもああして、みんなでいっしょに、きれいな舟をつくって、亡くなった人たちの魂をおくっていたのじゃ」
「そうなんですか」
「そうなのじゃ。ところで、きょうはこれから、ここまで来てくれた君に、メコン川をすこし案内してあげることにしよう」
「えっ、ほんとうですか?うれしいな」
「いまこれから、君を迎えに行くから、ちょっと目をつぶっていてくれたまえ」
「こうですか?」
「うん、そうじゃ。そぉーら。さあ、この椅子に腰かけるのじゃ」
「はい」
「そーら、君はもう、メコン川の中じゃ。目を開けてもいいよ」
「わー、ぼくは何かに乗っているんだ」
目を開けてまわりを見まわすと、学は金色のシルクを張って肘かけのついた立派な椅子に、メコンオオナマズの王様と並んで腰かけていました。
王様の姿は大きく、三メートルほどもあります。水族館で見たオオナマズとは少しちがって、からだ全体から、まぶしいような銀色の光を発しています。四本のひげも、背びれも、尻びれも、尾ひれも、みな銀色に光って、頭には小さな金色の王冠をのせていまいす。目はおだやかに微笑んでいます。
「あれっ、ぼくはたくさんのオオナマズたちがひく船に乗っているんだ。まるで新幹線の《のぞみ》に乗っているみたいだ。すごいスピードで進んでる」
「うん、時速三〇〇キロメートルくらいで行くとしようか。さあ、このあたりはもうラオスじゃ。川幅は半分ほどに細くなるが、雨期になると、あちらこちらの支流にふる雨を集めて、流れは川幅いっぱいになる。水は土の色に染まるのじゃ」
「ときどき、かいで漕ぐ舟が浮かんでいますね。あれっ、根っこがついたままの木も流れている」
「さあ、もうじきコーンの滝じゃ。この滝の流れ落ちる高さは二〇メートルほどなのじゃが、ここでは川幅が一〇キロメートルにもなるのじゃ」
「一〇キロメートルですか?ずいぶん広いんだなぁ」
「そうなのじゃ。いまはこの滝が障害となって、ここを船で通れないのじゃが、将来はきっと、ここにもダムがつくられて、船でずっと南ヴェトナムのほうまで行けるようになるじゃろう。さあ、滝のぼりをするから、肘かけをしっかりつかんでおれよ。おれっ」
「わーっ、アッというまに滝をのぼっちゃった」
「すぐ、カンボジアじゃ。もうじぎ東から大きな川が合流する。その先ずっと下って行くと首都のプノンペンに出る。そこではトンレサップ川という川と合流する。その川をさかのぼって行けば、アンコール・ワットにも行けるのじゃ」
「ぼく、アンコール・ワットって聞いたことがあります。お父さんが、タイからだったら飛行機で一時間ちょっとで行けるから、ぜひ行ってみたいといっていました」
「そうかね。アンコール・ワットは、十二世紀につくられた壮大なヒンドゥー教の寺院で、カンボジアに住んでいるクメール人がつくった建造物の最高傑作だといわれておる。そこは学くんが見たアユタヤーや、メコン川上流にあるラオスのルアンプラバンという町と同じく、人類の大切な財産として守っていくために、ユネスコが《世界遺産》に登録しているところなのじゃ。学くんにもぜひ見ておいてほしいな」
「あっ、王様、お願い。ちょっと船を停めてください」
「ん、どうしたのじゃ?」
「ぼく、いま、岸辺で足のない男の子を見かけたんです」
「学くんも気がついたか」
メコンオオナマズの王様は、急に悲しそうな顔をしていいました。
「あれはな、地雷をふんで足を失くしてしまった子なんじゃよ」
「地雷でですか?」
「そうなのじゃ」
「なんて可哀相に。どうして地雷なんかをふんだんだろう?」
「うん。カンボジアはアンコール・ワットのようなすばらしい人類の宝物がある国なのじゃが、学くんが生まれる少し前まで、長いあいが、内戦といってな、同じ国の人同士が殺し合う戦争をしとったんじゃよ。それで一〇〇万人以上の人が死んだのじゃ」
「一〇〇万人以上もですか?」
「そうなのじゃ。なにしろ、殺された人たちの血で赤く染まった川もあったくらいなのじゃ」
「なんて恐ろしい・・・・・・・」
「恐ろしいことじゃった。それにもう内戦は終わっておるのに、いまでも戦争中に埋められた地雷をふんで、あの子のように足を失くしたり、命を落とすこどもが出ておるのじゃ」
もし、妹の真奈美や仲よしのソムチャイが遊んでいてそんなことになったとしたら・・・・。そう思うと学はとても悲しく、やりきれない気持になりました・
「ぜったいに戦争なんかをしてはいかんのじゃ」
王様はつぶやくようにいいました。
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王様と学を乗せてオオナマズたちにひかれた快速線は、カンボジアと突っ切って、南へ下がって行きました。
「さあ、もうヴェトナムに入るぞ。もう少し行くと、川はいくつもに分かれて、メコン・デルタ地帯という低い平地を流れて行くのじゃ」
「わー、広い田んぼだなぁ」
「広いじゃろう」
「ずーっと、ずーっと向こうまで、緑の田んぼが続いている。かぶり笠のお百姓さんがたくさん働いていますね」
「うん。のどかな眺めじゃろうが」
「ほんとうですね」
「だがな、いまはこんなに平和なヴェトナムも、いまから三〇年近く前まではヴェトナム戦争という戦争があってな、ヴェトナムとアメリカが一五年間も戦っていたのじゃ。その前にはヴェトナム人はフランスとも戦。そのためにずいぶんたくさんの人の命がうしなわれたのじゃ」
「ここでも戦争があったんですか?」
「そうなのじゃ。あ、もうじき、メコン川の河口じゃ。南シナ海に出るぞ」
「南シナ海ですって。じゃあ、メコン川の終点なんですね」
「そうじゃ」
「ぼくたち、ずいぶん遠くまでやって来たんですね」
「うん。わしは海の中を泳がんのでよく知らんのじゃが、海の魚の仲間がいっておったな。南シナ海を海岸線に沿ってずーっと来たへ行くと、フエというところがあると」
「フエですか?」
「そうじゃ。その町にも、一九世紀のグエン王朝のころのすばらしい建物が残されておるそうじゃ。ほんとうはもっとたくさんあったのじゃが、ほとんどヴェトナム戦争中の爆撃で壊されてしまったそうなのじゃ」
「爆撃でですか?」
「うん。なあ、学くん。わしはさっき、人間はこの地球上でいちばん賢い生きものだといったな。世界言遺産になるようなすばらしいものをつくったのは人間じゃ。わしらのような魚にはそんなことはとてもできない。だが、戦争でそんな大切な宝ものを壊したり。殺しあったりするのもまた、人間なのじゃ。わしは三〇〇年以上も生きているので、この目でいろいろなものを見てきたが、じつは最近どうも、よくわからなくなってしまったのじゃ、人間という生きものが」
「・・・・・・・」
学は王様になんといっていいのかわかりませんでした。でもほんとうは、
「人間はだれだって、戦争なんて大きらいなんです!」といいたかったのでそす。
◇◇◇◇◇◇>
「うーん」と寝返りをうって、学は目をさましました。
「やあ、ずいぶん早いね。もう目が覚めたのかい。きょうもいいお天気だよ」
先に起きていたソムチャイのお爺さんがこちらを見て。ニコニコしながら声をかけました。
「みんなはまだ眠っているようだ。どうだい、散歩がてら、近くのお寺までお参りに行くかい?」
「ええ」
学はお爺さんといっしょに歩きながら、お寺で仏像になにをお祈りするのかを、心の中で、もうはっきりときめていました。
<おわり>
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